夢みる蝶は遊飛する
翌日、午後の新幹線で帰ろうと、ホテルをチェックアウトしてからあてもなくふらふらと歩いていたときだった。
夏希さんから連絡があったのは。
個室のある、エグゼクティブな雰囲気のカフェで、彼女は私を待っていた。
思いつめたような瞳に、吸いこまれてしまいそうだった。
行き届いたサービスを提供するスタッフに案内され、奥まったところにあるアンティーク調の扉の中に入った。
美しい調度品であつらえられたその部屋の、猫足の華奢な椅子に座る。
ゴブラン織りの布地は、糸のほつれひとつなく、上質な輝きをたたえていた。
向かい合って腰を下ろした私と夏希さんの間に、そっと滑らせるようにスタッフがメニューを置いた。
カフェインは今の私の胃の状態には良くないと判断し、アイスミルクを頼む。
こんなところで吐いてしまったら、洒落にならない。
スタッフが去ってからも、夏希さんは視線を下げたまま彷徨わせて、なにかを迷っているような、躊躇っているような、そんな風に見えた。
私から声をかけるべきかと思案しているうちに、頼んだ飲み物がそれぞれの前に置かれ、そして再び部屋は静寂に包まれた。