夢みる蝶は遊飛する
白い濃厚そうな液体の注がれたグラスに手を伸ばすこともできず、私たちはそれぞれ黙り込んでいた。
豪奢でよく陽の入るこの場にはあまりに不釣り合いな、暗くて重い空気がたちこめる。
彼女がどうして私をここに呼んだのか、その理由はわかっていた。
“すべて終わったら、私が知っていることを話すわ”
たぶん、夏希さんは私に伝えようとしている。
父が隠した真実の、私が知らない最後の部分を。
父が家を出てから亡くなるまでの、空白がついに埋まる。
それは、過去や真実を求めてさまよい続けている私が望んでいたことだけれど、実際にそれを目の前にすると、どうしても私から彼女に言葉をかけて促すことはできなかった。
すべてを知ったその先に待ち構えているのは、さらなる絶望か、それとも・・・・。
「私のいる意味は、あなたにすべてを伝えること」
唐突に、彼女が口を開いた。