夢みる蝶は遊飛する
一限目は古典。
教科担当は、担任である佐竹先生だ。
昨日渡されたばかりの教科書は、予習をしたためにすでに開き癖がついてしまっている。
数ページしか書き込まれていない真新しいノートを開いて、私はシャープペンシルを握った。
今日の授業は『伊勢物語』の中のひとつの話。
主人公の男が身分違いで手に入れられそうもない女性に求婚をし続けていた。
そしてついに、女性を拐って駈け落ちした。
追っ手から逃れようと、男は女性をおぶりながら必死で走る。
女性はその途中 「あれは何?」 と草にたまった露を指差し、男に問う。
男はあまりに急いでいるため、女性の問いには答えなかった。
やがて空は白みはじめていたが、ひどく雨が振り、雷が鳴り始めた。
一軒のあばら家を見つけ、押し入れに女性を隠し、自分は追っ手を倒そうと押し入れの前で弓を構える。
そこには鬼が出るとも知らずに。
雷鳴が轟いた瞬間、女性が押し入れの中で叫ぶ。
そう、鬼がやって来て女性を食らったのだ。
しかし雷鳴のせいで男はその悲鳴に気づかない。
夜が明けて男が押し入れを開けると、そこに愛する女性の姿はない。
そこで気づく、女性は鬼に食べられてしまったのだと。
男は嘆き哀しみ泣いて歌を詠んだ。