夢みる蝶は遊飛する


足早に行き交う人々も皆、なにかを抱えているのだろうか。

小さな悩みから大きな秘密まで、様々なものを。


不安、恐怖、絶望、嫉妬、憎悪。


負の感情が溢れて渦巻いているこの世界は、まるで泥沼のように私の足元をすくい、飲み込んでゆく。

そのまま、もがくこともせずに、沈み込んでしまいたかった。

夏希さんの話を聞き終えた私は、そんな気持ちになった。



あれから夏希さんと別れた私は、電車を乗り継ぎ東京駅から新幹線に乗った。

そして二時間以上をかけ、住んでいる街の近くまで帰ってきた。

まだ昼間なのに、まるで夜明けの刻のように冷え込んでいる。


家に帰る前に、どうしても行きたい場所があった。

どうしても今日、行かなければならない場所が。

滅多に利用しない線の電車に乗ってその場所を目指す。

二度の乗り換えを経てたどり着いたのは、海と山に挟まれた寂寥感溢れる町だった。




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