夢みる蝶は遊飛する

けれど、それとは裏腹に。

自分の存在など、なくなってしまえばいいとも思った。

このまま消えてしまいたい。

そして両親のもとへ行き、もう一度最初からやり直したい。

今度こそ、誰も傷つけないように生きてみせるから。

濃い灰色の雲の隙間からは、柔らかな陽光が一条、地上へと伸びている。

それは私を天上へと誘う階段のようだった。


痺れるように芯まで冷えきった身体に、天使の羽根のような雪が舞い降りる。

ふんわりと優しく白い輝きをまとうそれは、地に落ちては溶け、跡形もなく消え去る。

東京よりも寒いこの地では、12月に入ってから小雪がちらつくことが度々あった。

私がここを離れていた数日は強い寒波が日本列島を襲ったものの、大雪にはならなかったらしく積もってはいない。

吹雪にでもなって、私を外界から隠してくれればいいのに。

きっと真っ白な雪に埋もれたとしても、私に触れた部分から、白は黒へと変化していってしまうだろうけれど。


この雪が、本当に天使の羽根ならいいのに。

そうすれば私は、両親のいるところまで連れて行ってもらえるのに。

もしもこの雪が蝶だったなら、私もその姿を借りて、いつまでも優しい夢の中でふわふわと飛んでいられるのに。

夢の中だったらきっと、翅が傷ついても、舐めれば癒えてまた飛び立てるだろう。



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