夢みる蝶は遊飛する
「私が雅人さんと出会ったのは、ちょうど二年前の今頃だった」
夏希さんは、遠い目をしながら語り出した。
きっとその瞳には、父との過去が映っているのだろう。
「私、その時風邪をひいてて、病院の待合室でたまたま隣に座ったの。普通なら気にも留めないんだけど、雅人さん・・・泣いてたのよ。泣いてたっていうより、涙を流してた、呆然として。
だから気になったの」
にわかには信じがたかった。
父が泣いた姿など、一度も見たことがなかった。
「それでハンカチを差し出した時、彼が写真を持っていることに気がついた。それは、あなたとお母さんと雅人さん、三人が笑顔の家族写真だったわ」
「家族写真・・・?」
私は吐息とともに小さく呟いた。
なぜ父がそれを見て、泣いていたのか。
二年前の今頃といえば、父が家を出ていってから、それほど経っていない。
自ら出ていった父がそれを握りしめて泣く理由に、思い当たらなかった。