夢みる蝶は遊飛する

「それからいろいろあってね、私たちは時々会うようになった。彼の話はいつでも、家に残してきた家族のことばかりだったわ。
何度も言ってた、会いたいけど会えないって」


ますます混乱してきた。

父の本心は、今のところ私には欠片も見えてはいない。


「その時にはもう彼、胃がんを患ってたのよ。だから会うといっても病院の中だけ。初めて会ってからすぐに、彼は入院したから」


そんな時期から病気と闘っていたなんて。

私は何も知らずに過ごしていたのに。

自分だけが傷ついたふりをしながら。

この世の悲しみをすべて背負ったような顔をして。


父は日々、死の恐怖に怯えていたというのに。

たった独りで。


「家を出てきた理由も聞いたわ。あなたと自分の過去を、重ね合わせていたみたい。
でも彼はすごく後悔してた。怒りや失望に飲み込まれて、家を飛び出してきてしまったこと。だから頭を冷やして、帰ろうって思った。誠心誠意謝って、償って、そして、また新しい関係を築き上げようって。バスケとか、そういうものでつながるのではなくて、もっと深いもので結ばれた家族になろうって。
でもそんな時、彼は自分の身体の不調に気がついた。それが、彼があなたたちの元に帰れなかった理由よ」

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