夢みる蝶は遊飛する
「でもどうして、最期を私に看取ってほしいだなんてお父さんは・・・」
別々の道を歩むと父が決めたからには、私たちの生きる道はもう交わらないはずだったのに。
どうして。
夏希さんは、レースで縁どられたハンカチで目頭をぬぐった。
彼女はなにに対して泣いているのだろう。
私の瞳には、一粒の涙も浮かんではいないのに。
「謝りたかったんですって、どうしても。自分の中の確約を破ってでも、彼はあなたに謝りたかった。傷ついたあなたを、さらに苦しめるようなことをしてしまったことを。
そして・・・あなたのお母さんを、死に追いやってしまったことを」
謝罪なんて、必要なかった。
けれど父のその想いがなければきっと、私はその最期の姿を見ることは叶わなかっただろうし、訃報すら知ることはなかったかもしれない。
母の自殺の原因はきっとあの父からの葉書だろうけれど、私はそれを父には知らせていない。
けれど父は気づいたのだろう。
自分のとった行動によって、母の心を壊してしまったことに。