夢みる蝶は遊飛する

父が帰って来ずに離婚を選んだ理由が私ではないからといって、それが何になるのだ。

父の再婚が母を追い詰めたのだから、私は悪くはないなどと、どうして言えるだろうか。

叔父たちの言うように、私を責める理由がもしもなかったとしても。

私を責めない理由も、どこにもない。


私が、弱かったから。

私がもっと強ければ。

私が膝を壊さなければ、父が家を出ていくことなどなかったのだ。

それが私のせいではないとは、言えるはずがなかった。


だから私が母を殺したのだ。

母が死を選んだ理由が父の再婚ならば、その再婚のきっかけを作ったのはまぎれもなく私だ。

だから、私が母を死に追いやったのだ。



ふと、机の上を見た。

ペン立てが目に入る。

私は無意識に手を伸ばした。

カッターナイフを手にとり、濁った瞳でそれを見つめる。

カチカチと刃を繰り出すと、錆びていない鈍く光るその鋭利な刃が、ひどく魅力的に感じられた。




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