夢みる蝶は遊飛する
私はそれから毎日、施設の玄関が見える談話室から外を覗いていた。
“おとうさん”と“おかあさん”が迎えに来てくれるのを待って。
母親という存在のぬくもりを、私は知らなかった。
父親という存在によってもたらされる安心感を、私は知らなかった。
けれど、たまに会いに来てくれた両親に、いつ迎えに来てくれるのかも訊ねられなかった。
帰らないでと駄々をこねることもできなかった。
二人が私を見つめる瞳の奥にいつも、悲しみが横たわっていることを、私は敏感に感じ取っていたから。
だから言えなかった。
子どもらしく感情を出すことができなかった。
たぶんそれが、私が偽りの仮面を被るようになったはじまりだ。
孤独を孤独と知らなかった頃から、いつも私は愛に飢えていた。
ただ、愛されたかっただけだった。