夢みる蝶は遊飛する
私宛てではない方の母の遺書には、連ねられた謝罪の言葉に続いて、私の今後についての母の意向が記されていた。
母は、自分の実家で私が高橋姓を名乗り静かに生活することを望んでいた。
両親の離婚後も、私は引き続き長谷川の名字を使っていたから。
けれど私はそれを母方の祖父母に自分から申し入れることはどうしてもできず、東京で一人暮らしをしようと考えていた。
この家と家財道具を売り払い、それに母の保険金を足せば、私が公立高校に転校して高等教育を受けることは十分可能だった。
それからは、進学せず働いて、ひっそりと暮らしていけばいい。
けれど祖父母は、いきなり現れた高校生の孫に対し、なんの躊躇いもなく一緒に住もうと言ってくれた。
結局、生活能力のない私がいきなり一人暮らしをするのは無理があるだろうという結論に至り、私は母の生まれ故郷へ行くことにした。
家財道具のほとんどを売り払い、両親の私物の大半を処分した。
いちいち思い出して過去に浸っていたら、やっていられない。
一切の感情を捨てて、無心にごみ袋に詰めた。