夢みる蝶は遊飛する
『あなたは一度も、自分がどうして施設で暮らしていたかを私に訊きませんでした。
子どもに気を使わせていることを申し訳なく思う反面、訊かれないことに安堵していたのも事実です。
けれど、もしあなたがそれを知りたいのなら、最後まで読んでください。』
便箋を持つ両手が震える。
できればこんな形では知りたくなかった。
両親に囲まれて、そこで初めて聞かされたかった。
たとえ取り乱してしまっても、優しく抱きしめてくれるぬくもりがあったなら。
でも、もう後戻りはできないのだ。
指先に力を込めると、くしゃりと紙が音を立てた。
誰からも恨まれていない、私はたしかに愛されていた、瞳を閉じて叔父の言葉を何度も何度も反芻し、落ち着いたところで瞼を上げる。
期待とも恐怖ともいえない、どうしようもない感情が私の胸を掻き乱した。