夢みる蝶は遊飛する
『17年前、私が24歳の時にあなたが生まれました。
父親である雅人は26歳。
私たちはともに肉親とはほぼ絶縁状態にありました。
頼れる人のいない中での東京暮らし、そして子育ては、私に重くのしかかってきました。
あなたを愛していた。
生まれてきてくれてありがとう、そう毎日思った。
けれど、それと子育ての楽しさは比例しませんでした。
あなたが泣くたびに、私はどうしたらいいのかわからなくなりました。
亜美には私たちしかいないのだからと、あなたが安らげる世界を作ってあげようと必死でした。
けれど、まわりの母親は皆、順調に子育てをしているように見えて。
母親になりきれない自分の不甲斐なさに、押し潰されそうでした。
母親としての役割も、妻としての役割も、完璧にこなさなければならない。
私が完璧でいることが、あなたの成長にとってもっともよいことだと思っていました。
大切な人たちと過ごす毎日は幸せには違いないけれど、私の心は日に日にすり減っていきました。