夢みる蝶は遊飛する
8時30分。
普段より少し遅い時間に教室に入った。
クラスメイトたちに挨拶をしながら自分の席へと向かう。
たぶん家庭の事情や身内の不幸とでも伝えられていたのだろう、誰も私が一週間も欠席していたことについて触れなかった。
その気づかいさえもが、今の私の気に障った。
自分自身に対して私は今、非常に愚鈍になっているけれど、他人に対しては過敏になっている気がした。
誰も私のことなど、傷つけようとしていないはずなのに。
関係のないまわりの人間を警戒し疑うことで、また自分の中のなにかが損なわれていく気がした。
私自身が粉々に砕け散っているのだから、もうこれ以上壊れるものはなにも無いのに。
鈍い痛みが頭を襲う。
俯きながらわずかに顔をしかめていると、人の気配がした。
顔を上げると、泣きそうな顔をした沙世がいた。
「おはよう。どうしたの?」
「どうしたの、じゃないでしょ! 亜美こそどうしたの? なんで、一週間でこんなにやつれたの?」