夢みる蝶は遊飛する
私はもう何にも傷つかないように、外部からの攻撃から心を守るために。
バリアを何重にも張り巡らしている。
けれど、それらはもうすべて崩れ去ってしまった。
剥き出しの心は今、新たな攻撃を恐れて縮こまっている。
強くなりたかったのだ。
だから誰にも触れさせなかった。
心の奥の、深い部分には。
けれど、それで強くなれたかと問われれば、頷くことはできなかった。
「俺が言えるのはここまで!」
そう言ってヒロくんはにっこり笑った。
私にはそれが心からの笑みなのか作り物なのか、判断できなかった。
「最後にひとつ。
一人ですべてに耐えられる人間が、必ずしも強いわけじゃないよ」
そして私の手から雑巾を取り、代わりに持っていたカイロを渡してくれた。
一段飛ばしで階段を駆け降りていくその後ろ姿を、ぼんやりと眺めていた。
彼の言葉の数々が、頭の中でこだましていた。
握りしめたカイロが、私の指先に人間らしい温もりを伝えていた。