夢みる蝶は遊飛する
キーボードを叩く音だけが、しんと静まりかえった保健室に響いた。
窓の外は朝と同じように快晴だけれど、空の色は少しだけ青みが増している。
ペットボトルを傾けながら、ぼんやりとその風景を見ていた。
「先生は、身近な人を亡くしたことがありますか」
気づけばそう口にしていた。
言ってから、まだ二十代半ばだろう古居先生の両親など肉親は健在であることが多いだろうと思った。
「三年前に父親が事故で、あっさり」
足を組みかえながら、先生は淡々とそう言った。
そして、自分がとてつもなく無神経な質問をしたことに気がついた。
「すみません・・・」
「いいの、もう気にしてないから」
私がどうしてそんなことを訊いたのかは問わずに、先生は一瞬だけこちらに笑顔を向けた。