夢みる蝶は遊飛する
「きゃーっ! すごい、勝ったよ!」
沙世がものすごい勢いで抱きついてきた。
170cm近い身体に飛びつかれ、バランスを崩しそうになった。
ポニーテールにしている沙世の髪が、私の顔に張りつく。
それで私は、自分が大量の汗をかいていたことに気がついた。
いつぶりだろう、こんなに無心になれたのは。
どうしてだろう、輝かしい未来を自らの手でつぶした私が、こんなに真剣になれたのは。
チームの他の子たちも集まって、それぞれハイタッチを交わし合った。
キラキラと輝く汗が、まるで宝石のようだ。
赤くほてったみんなの顔を見て、自然に破顔した。
ただの体育の授業だと言われればそれまでだけれど。
それでも充実感はあったし、なにより楽しかった。
私はたぶんこの学校へ来て、今まで送ることの許されなかった“普通の生活”を体験しているのだろう。
いろいろなものにがんじがらめにされていた私の背の翅は、傷ついてしまっているけれど。
飛び立つことのできない代わりに、私は今まで知らなかった世界を見ることができている。
それを幸せだとは、まだ思えないけれど。
勝利の喜びにひたるチームメイトたちの輪からそっと抜け出し、私は自嘲気味に微笑んだ。