夢みる蝶は遊飛する
「でもね、悲しみとかはもうないけど、父のことを忘れたわけじゃない」
まるで私の心を読んだかのような言葉だった。
「心の中で生きつづけるって、よく言うじゃない。まさにそれ。いつまでもきっとあの人はあの人のままで生きてるの」
心の中で生きつづける。
そうだ。
父も母も、私の心の中で生きている。
死は、終わりでありはじまりなのだから。
「悲しみは、喜びでは埋められないわ。悲しみは、喜びではごまかされないの。悲しみ以上の喜びを得たところで、悲しみがなくなるわけじゃないのよ」
先生がこちらを見ているような気がして、私は顔を上げることができなかった。
「いつまでも悲しんでいる必要はないけど、悲しみも、大切な人のことを大事な思い出にするためには必要だと、私は思ってる。
なにかあるなら、話を聞くけど?」
そう言った先生の顔は、教師の顔ではなかった。
父親を亡くした、ただの娘の顔をしていた。