夢みる蝶は遊飛する
人の気配のしない廊下を歩く。
ワックスがかけられた床はいつもより艶が増しているけれど、独特のにおいも残っている。
渡り廊下を歩いていると、風にのって、吹奏楽部の演奏が聞こえてきた。
誰もが聴いたことのある有名な曲だというのはわかったけれど、曲名までは知らない。
ショパン、バッハ、ベートーヴェン、モーツァルトなど、いつか音楽の授業で習った、知っている限りの作曲家の名前を思い出しながら、自分の教室へと向かった。
2年2組。
転校してきてから毎日のように過ごした教室は、もう目の前。
木の引き戸にはめられた窓ガラス越しに、見知った後ろ姿を見つけた。
そこにいるのは二人。
どうしているのか。
まさか、私のために。
都合のよい考えは、どれだけ頭を振っても消せなかった。
最後の最後に、期待してもいいのだろうか。
まだ私は、大切なものを手放してはいないのだと。