夢みる蝶は遊飛する

授業が終わり、沙世と更衣室に向かっていると、後ろから誰かに話しかけられた。


「高橋さん」


振り向くと、同じチームの柏木さんだった。

柏木さんは、バスケ部のキャプテンらしい。

どうりで動きが俊敏だと思った。



「柏木さん。今日は楽しかったね」


「うん。高橋さんの最後のスパイクすごかった! かなりジャンプ力あるんだね。
・・・あのさ、膝って何でサポーターしてるの?」


唐突に訊かれたので少し驚いた。


確かに、帰宅部の私がサポーターをつけているのは、おかしいのかもしれない。

柏木さんは、私が部活に入っていないことを知らないかもしれないけれど、転校生だというぐらいは知っているだろうし。


「ああ、これ? 古傷が痛むから、かな。今はほとんど痛くないんだけど、運動するときは少し不安で、つけてなきゃ落ち着かないの」


言いながら少し恥ずかしげに微笑んで見せる。

誰も何も不審に思わないような、そんな表情を。


このサポーターの下に隠された秘密は、たしかに私の過去の傷である。

そしてその傷が、大きな亀裂を生み、すべてを壊した。




「そうなんだ…」


柏木さんは少し考えるような表情をして去っていった。


「柏木さん、なんだろうね」


独り言のように呟くと、沙世も首を傾げていた。

彼女の真意は、翌日明らかになった。

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