夢みる蝶は遊飛する
「あたしは逃げることが悪いとは、あんまり思わない。さっき言ったことは撤回する。逃げる逃げないなんてあたしが言えることじゃないし」
さっき、というのは私に対する、なにかから逃げたいのかという問いのことだろう。
「例えば、目の前に壁があったとする。前に進む方法は、主に三つよね」
壁をよじ登る方法。
壁を壊す方法。
壁を避ける方法。
指折り数えて説明する。
「一般的には、壁をよじ登るか、ぶっ壊すのが困難の乗り越え方、みたいにされてるけど。でも、どの方法を選んでも、障害物をクリアしたっていう事実は変わらないのよ。壁の向こう側に行くのが目的なんだから、行き方なんてどうでもいいわけ。だったらどの方法を選んでもいいでしょ。だったらあたしは、壁を避ける」
それが当然、とでもいうように主張する沙世の考えは、私にはできないものだ。