夢みる蝶は遊飛する
「・・・にしても数Ⅱのバーコード鈴木、亜美ちゃんのこと気に入りすぎだって! 毎回のように板書させて、自分は楽しようって魂胆だな」
唐揚げを箸で掴んだまま力説する小早川くん。
咀嚼しながらそれに頷く須賀くんと、プチトマトをフォークで刺しながらつまらなそうな顔をしている沙世。
話されている内容が自分のことであるだけに、私も沙世と同じ態度をとることは躊躇われた。
彼の話に付き合っていると、食事が進まない。
仕方なく、軽く相槌を打ちながら適当に話に参加する。
「小早川くん、考えすぎだよ」
相変わらず口いっぱいに食べ物を詰め込んでいる須賀くんは何も喋れないでいるので、二人だけの会話のようになってしまっている。
「ノンノン、亜美ちゃん。ヒロって呼んでってば」
次は卵焼きを箸に串刺しのようにしながら、小早川くんは言う。
行儀が悪いと思いながらも、注意しづらい。
言葉遣いや行儀などを厳しく母に躾けられた私としては我慢ならないその行為から目を背けつつ、答えた。
「じゃあ、ヒロくんでいいかな?」
えー、とまだ不服そうな彼の言葉に被さるように、私を呼ぶ声がした。
「亜美ちゃん、廊下、呼んでるよ」
クラスメイトのその声に、私は廊下を見やった。
そこには、柏木さんがいた。
首を傾げながらお弁当に蓋をし、席を立つ。