夢みる蝶は遊飛する
色褪せぬもの
私の泣き声よりもエアコンが空気を吐き出す音が大きくなった頃。
いつの間にかしがみついていた沙世の腕から、ようやく私は手を離した。
窓の外はもう暗い。
電気をつけていない部屋では、近くにいる沙世の顔も判断できないほどだ。
私は泣きすぎてひりひりする頬を両手で押さえながら、ゆっくりと立ち上がって電気をつけた。
眩しさに、目の奥が痛む。
私はずっと、泣いてしまったら負けだと。
そう思っていた。
強くなるために、涙を封印しようと。
けれど、封印していた涙を解放してみると、待っていたのは驚くほどの爽快感だった。
ひとつ扉を開けたここから見る景色は、鮮やかに色づいている。
きっと、少しずつこうして、私は歩いていくのだろう。
何度も遠回りをして、自分を傷つけながら。