夢みる蝶は遊飛する
沙世とくだらない話で笑って、沙世が私の顔を見て笑って、そんな沙世の姿に私も笑って。
数時間前と今は、なにが変わったのだろう。
笑顔を張りつけて強がっていたあの時、本当はどんな表情がしたかったのだろう。
それで私はなにを得たのだろう。
失ったものばかり、数えてしまう。
なにに対するものなのかもわからない後悔が胸を占めそうになるたびに、それを沙世の笑い声が吹き飛ばした。
氷が溶けて私の瞼の赤みがやっと無くなった頃に、沙世は帰宅した。
ごみ箱には丸められたティッュが山盛りになっている。
沙世と過ごした時間の名残が、この空間にはある。
冷たくなったカイロも、持ってもらった鞄も。
私の周りにいる“誰か”の存在を、たしかに感じる。
そう、だから、一人ではないのだと。
私は一人ではないのだと。
夜空に囁いた。