夢みる蝶は遊飛する
「柏木さん、どうしたの?」
窓際の私の席は、9月中旬の今はまだ暑いけれど、廊下はひんやりとしていた。
彼女は少し目を泳がせた後、意を決したように口を開いた。
「高橋さんって、あの皇ヶ丘学園のバスケ部だったんでしょ?」
心臓が、一瞬止まった気がした。
どうして。
なぜ。
彼女が、それを。
表情を崩さないように意識しながら、彼女に問う。
「どうしてそれを、知ってるの?」
場にそぐわないような笑みを浮かべながら。
「この前、職員室で偶然聞いたの。先生たちが話してるのを。皇ヶ丘学園だったってことは知ってたけど、まさかバスケ部だったなんて知らなかったからびっくりして」
その言葉を聞いて、私は眉をひそめた。
「私が皇ヶ丘に通ってたっていうこと、知ってたの?」
私はそれを、誰彼構わず吹聴して回っているわけではない。
というより、意図的に隠そうとさえしている。
覚えている限り、私自ら以前の学校のことを話したのは、一人しかいない。