夢みる蝶は遊飛する
焼けたスポンジを取り出して、ケーキクーラーに乗せる。
深呼吸すると、ほのかな甘い香りで幸せな気持ちになった。
スポンジを冷ましている間に、沙世の部屋で私はヘアメイクを施されていた。
髪も顔もなにもせずに来るように昨夜メールが来たのはこのためだったらしい。
前髪を大きなピンで留められ、私の顔に肌色の冷たい液体が塗りたくられる。
くすぐったくて首をすくめると、動かないで、と注意された。
沙世があまりにも真剣な顔をしているものだから、大人しく言うことを聞いた。
アイシャドウやリップグロスの色の好みを訊かれたけれど、すべて沙世に任せた。
そうしてできあがった私の顔は、数日前の病人のような顔とは別人のようだった。
もともとあまり血色の良くない顔は、チークによってふんわりと色づいていて、春に咲く花のようだと思った。
自分の睫毛が化粧でここまで長くなるとは思っていなかったし、なかなか消えなかった隈はなくなっているし、どことなく目鼻立ちがはっきりとしたようにも感じる。
変わった自分の顔をまじまじと見つめていると、沙世は次に私の髪を巻きはじめていた。