夢みる蝶は遊飛する

焼けたスポンジを取り出して、ケーキクーラーに乗せる。

深呼吸すると、ほのかな甘い香りで幸せな気持ちになった。





スポンジを冷ましている間に、沙世の部屋で私はヘアメイクを施されていた。

髪も顔もなにもせずに来るように昨夜メールが来たのはこのためだったらしい。


前髪を大きなピンで留められ、私の顔に肌色の冷たい液体が塗りたくられる。

くすぐったくて首をすくめると、動かないで、と注意された。

沙世があまりにも真剣な顔をしているものだから、大人しく言うことを聞いた。

アイシャドウやリップグロスの色の好みを訊かれたけれど、すべて沙世に任せた。



そうしてできあがった私の顔は、数日前の病人のような顔とは別人のようだった。

もともとあまり血色の良くない顔は、チークによってふんわりと色づいていて、春に咲く花のようだと思った。

自分の睫毛が化粧でここまで長くなるとは思っていなかったし、なかなか消えなかった隈はなくなっているし、どことなく目鼻立ちがはっきりとしたようにも感じる。


変わった自分の顔をまじまじと見つめていると、沙世は次に私の髪を巻きはじめていた。


< 411 / 681 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop