夢みる蝶は遊飛する
なにかのスプレーを吹きかけ、ブロッキングして丁寧に一束ずつ巻いている。
熱を加えて少し香ばしい匂いがするので、冷ましているスポンジのことを思い出してまた少し顔が緩んだ。
沙世の手つきがあまりにも鮮やかで、まるでプロにヘアメイクをしてもらっているような気分になる。
綺麗に巻かれた私の髪を、沙世が最後に軽くほぐして完成した。
「すごい! ありがとう」
満足そうに頷く沙世と鏡越しに目を合わせて、やっと私は口を開いた。
真剣になりすぎて、沙世の顔は途中からどんどん険しくなっていたから、声をかけることができなかったのだ。
「自分の顔とか髪やるのと違うから、超難しかったんだけど」
そうしてわざとらしく肩を回しているけれど、隠し切れていない歓喜の表情が、沙世の満足の度合いを示している。
もう一度お礼を言って、それから私たちは冷ましているケーキの様子を見るために、弾むように階段を駆け降りた。