夢みる蝶は遊飛する
じっとオーブンに顔を近づけて見つめていると、伝わってきた熱で顔が熱くなる。
電子音が鳴り、そっとチキンを出して、沙世に言われた通りに皿に盛る。
取り落としそうになってひやりとしたけれど、それでもなんとか持ちこたえた。
小さく息を吐き胸をなで下ろしたところで視線を感じ、振り向いてみればヒロくんがこちらを見ておかしそうに笑っていた。
どうやら私の一連の動作を見られていたらしい。
ヒロくんには通じない笑顔を見せ、なんでもない風に装ってみたけれど、遅すぎた。
沙世は、佳奈子さんが作っておいてくれていたというビーフシチューを温めている。
ヒロくんがセッティングしたダイニングテーブルにチキンを運び、そうすると私は次になにをしたらいいのかがわからなくなってしまった。
言われたことしかできないのだ。
須賀くんがクリスマスツリーの電飾のスイッチを入れてひとりで楽しんでいる。
私もその煌めく飾りを見つめていた。
少し目を細めてみると、ぼんやりとした世界の中で、柔らかく発光するその飾りがいっそう美しく見えた。