夢みる蝶は遊飛する
ヒロくんが勢いよく抜いたコルク栓は、沙世の前のビーフシチューの中に速度を落としながら飛びこんでいき、沈没していった。
沙世は片眉を上げ、呆れたようにため息を漏らしながら、無言でその皿を須賀くんのものと換えた。
「え、なんで俺のと!?」
「なんか文句あるの?」
「・・・いや、ないけど・・・・うん」
とばっちりを受けた須賀くんは、首を傾げて納得のいかない顔をしながらもコルク栓をすくい上げ、ティッシュで包んで捨てていた。
その背中に哀愁が漂っているように感じられて、失礼だと思ったけれど笑いがこみ上げてくる。
こらえたけれど肩が震えてしまう。
そして、沙世やヒロくんと目が合った瞬間に三人同時に吹き出した。
「ちょ、ひどっ! 笑うなっ」
ひとしきり笑った後、シャンメリーを全員分のグラスに注ぎ、乾杯をした。
グラスを触れ合わせるたびに、炭酸の泡の弾ける琥珀色の液体が楽しげに揺れた。