夢みる蝶は遊飛する
迷子の少女
「ごめんなさい」
決まりきっている答えを口にした。
このことに関して私が首を縦に振るなんていうことは、ありえないのだ。
「なんで? なんでダメなの?」
柏木さんは不可解そうに顔を歪めた。
言うしかないのだろうか。
私が隠し通したい過去を。
どんなに望んでも、もう戻ってこない日々のことを。
一瞬迷い、そしてほんの少し、もっとも重要だけれども、もっとも知られても差し障りのない部分だけを話すことに決めた。
それだけでも聞けば、きっと無理強いされることもないだろうから。
「私、膝を壊してるの」
たぶん今、彼女の目の前には、申し訳なさそうに眉を下げている私がいるはずだ。
「昨日も言ったと思うけど、まだ痛むこともあるから、プレイはできない」
体に負った傷も、心が受けた傷も、そう簡単には癒えることはない。