夢みる蝶は遊飛する
私はまだ食欲が完全には戻っていないけれど、それでも楽しみながらする食事は思った以上に箸が進んだ。
さくさくのバゲットをシチューに浸して食べるヒロくんを真似して、須賀くんも同じことをやっていた。
けれど滴り落ちたシチューが彼のジーンズを汚し、慌てて立ち上がった拍子にフォークが机から滑り落ちる。
それを拾い上げて流しに置き、それから服を洗いに部屋を出ていくのを見て、沙世が再びため息をついた。
「ほんっと須賀って、落ち着きがないわね」
サラダのパプリカをフォークでつつきながら、小さく頷いた。
けれど、彼は見ていて飽きない。
自然と笑顔になってしまうのだ。
もちろん、そこには沙世とヒロくんの存在もあるのだけれど。
未だ弾力を保っている巻き髪が入らないように気をつけながら、シチューをすくったスプーンに口をつける。
溶け込んだ野菜や肉の旨味のむこうに、どこか懐かしさを感じさせるなにかがあった。
それは母の作ったものとは違う味だけれど、私にかつての幸せな日常を思い起こさせた。
聖なる夜に、父と母は一緒に過ごしているのだろうか。
手の届かない空のむこうに、思いを馳せた。