夢みる蝶は遊飛する
「え、なになに、亜美ちゃん雪合戦したいの?」
ヒロくんが、楽しそうに言った。
からかう気がたっぷりありそうなその瞳は輝いている。
「も、もういいの。それは」
そんな子どもじみたことを言っていたことが恥ずかしくて、強引に会話を終わらせた。
けれど、何年振りかに見た積もった雪が嬉しくて、わざと誰も踏んでいないまっさらな部分を選んで歩いた。
私の足跡が、白い路面にくっきりと残る。
「やっぱり楽しんでるじゃない」
それを沙世に見つかってしまい、今度は開き直った。
「積もってるのなんて滅多に見られないから、いいじゃない」
小雪がちらついていたのは、たしか東京から帰ってきた日に、母の墓前で見たけれど。
あの日のことを思い出して、胸が苦しくなる。
それを、澄んだ夜空を見上げることで痛みを誤魔化した。