夢みる蝶は遊飛する
鐘の鳴る夜
“今から行くね!”
沙世からのそのメールを受信したのは、年が明けるまであと三十分余り残した時間だった。
もうすでに出かける準備は整っている。
祖父母は、大晦日の定番である歌番組を観ている。
声をかけてからリビングを出た。
暖かかったリビングを出ると、途端に冷気に晒される。
廊下とはいえ家の中でこれだけ寒いのだから、外は一体どれほど冷え込んでいるのだろう。
閉めたばかりのリビングの扉をもう一度開けたくなるのを堪えて、上がり框(かまち)に座ってブーツを履いた。
そして立ち上がり、目をきつく閉じて首をすくめながら玄関の扉を開けた。
指に触れたノブの冷たさにぞくりとした。
一歩外に出てみれば、予想通りの寒さに襲われた。
痛みと区別がつかないような刺激に、頬や耳が痛む。
家の前の通りに立って、沙世たちが来るのを待っている間も、足踏みをして少しでも体温を上げようと試みていた。