夢みる蝶は遊飛する
私も戻ろうと踵を返すと、ちょうど扉のところに立っていた人と目が合った。
須賀くんだった。
彼は教室から出ようとしていたようには見えず、ここで誰かを待っているような、そんな様子だった。
そして彼は、すまなそうに言った。
「ごめん! なんかうちの親が個人情報漏らしたっぽくて。いやあの、俺、親に、クラスに転校生来たんだーとか言っちゃって。んで、あの皇ヶ丘学園だよ!? みたいな感じでバラしちゃって。
・・・・・まさかそれが、柏木にまで伝わると思ってなくて・・・」
顔の前で手を合わせて、下げられた頭のつむじを見ていた。
「ほんっと、ごめんなさい!」
黙ってそれを見つめていたけれど、彼が不安そうな瞳でこちらを見つめてくるので、口を開く。
色素の薄い瞳はまるで捨てられた子犬のようで、無視することが出来なかった。
「別に、気にしてないから大丈夫。謝らないで」
もうすっかり板について、もはや自分でも偽りなのかわからないような笑顔を向けた。
すると彼はたちまち安心したように表情を緩めた。
けれど。
「高橋さんって、皇ヶ丘のバスケ部だっ・・・・」
「ごめんね。私まだお弁当食べきれてないの。席に戻ってもいい?」
私にとって都合の悪いことを彼が言おうとしたため、いささか不自然だと思えるような強引さでそれを遮る。
彼は少し不思議そうに目を瞬かせたけれど、偶然だとでも思ったのだろう、壁に掛けられた時計を見て慌てた様子で教室を出ていった。
飲み物を買ってくる、と、私には関係のない言葉を残して。