夢みる蝶は遊飛する
「バーコード鈴木なんて、残ってる髪も全部抜ければいいのに」
数学のテストも終えると、沙世はもう抜け殻のようになっていた。
顔色が悪く、隈が一層くっきりと見える。
「普通、基本7割、応用3割くらいの比率にするでしょ。なのに、なにあれ!」
出された問題を振り返り、憤慨している。
たしかに応用問題が多かったし、問題数自体も多かった。
私も、すべて解き終わって時計を見たら、あと数分しか残っていなかった。
「ねえ、補習に出なかったら呼び出しとかあると思う? 何人くらい補習受けると思う?」
やっと今テストが終わったところだというのに、もう沙世は結果の心配ばかりしている。
というのも、補習は放課後に行われるので、部活の時間が短くなってしまうのだ。
沙世の所属するバレー部は、二週間後に新人戦を控えている。
レギュラーである沙世が部活を抜けることは難しいのだ。
「どうしよう・・・・心配で気持ち悪くなってきた。
でもとりあえず部活行ってくるわ・・・・」
沙世は肩を落とし、暗い影のようなものを背負って教室から出ていった。
そして時計を見て、私も慌てて鞄に荷物を詰め込み、体育館へ向かった。