夢みる蝶は遊飛する
ジャージに着替えて、体育館横の冷水器でボトルに水を入れる。
跳ねた水が手にかかり、その冷たさはじんじんと痛みを感じさせるほどだ。
すでに中身の入ったボトルには、結露が玉のようにつき、辺りの空気をさらに冷やしている。
「亜美先輩! 久しぶりですっ」
その寒さを吹き飛ばすような元気な声で、後輩の奈々がやってきた。
奈々は新年早々インフルエンザにかかり、今日が今年初めての練習なのだ。
「インフルエンザ、辛かったですよ! 腰が痛くて眠れなかったんです。でも、わりとすぐに熱は下がったので今日から練習に参加できます!」
「病み上がりだから、無理はしないでね。辛くなったらすぐに言って」
「はーい。でも、本当に今は元気が有り余ってます!」
「そうみたいだね」
明るい表情からは、体調が悪そうな様子は窺えない。
先ほどの沙世の方が、よっぽど病人のようだった。