夢みる蝶は遊飛する
その時だった。
「長谷川さん!」
大声で、私のことを呼んだ人物がいた。
振り向くのと同時に、口が動いた。
「は・・・」
「なにーっ!」
けれど、私よりも大きな声で返事をしたのは、隣にいる奈々だった。
「長谷川さん、空気入れってどこにあるかわかる?」
駆け寄ってきて奈々にそう話しかけたのは、男子バスケ部の一年生部員だった。
彼の視線の先には、奈々がいる。
長谷川奈々が。
「亜美先輩、空気入れって部室にありますよね?」
「あ、うん・・・・」
奈々の丸い瞳がこちらに向けられても、私は歯切れの悪い答えを返すことしかできなかった。