夢みる蝶は遊飛する
その日を境に、私は誰のものとも知れぬ強い視線を向けられるようになった。
そこに込められているのはいつも、敵意と憎悪。
そしてそれらに隠された、すこしの悲しみ。
一体誰が、なんのために。
ただ、知ろうとすればすぐそこに、答えはあったのだ。
「ココアとカフェオレ、どっちにしよう」
沙世が自動販売機の前で迷っている。
私はすでに買ったミルクティーの缶で暖をとりながら、沙世が決めるのを待っている。
「寒いから早くしてくれないと戻っちゃうよ」
「えー、ちょっと待ってよ。いつもならココアなんだけど、今日はカフェオレにしてみようかなって思って考えてるんだから」
「買いに来る前に決めておけばよかったのに」
「もー、亜美が喋るから集中できないのよ。あたしが決めるまで黙ってて」
沙世の八つ当たりのような言葉を不服に思いながらも、口を閉じてじっと待つ。
それなのに沙世の目はいつまでもココアとカフェオレを行ったり来たりしている。