夢みる蝶は遊飛する
安堵に似たため息をつく。
力が抜けて、しゃがみこんでしまった。
この胸を占めるのは、恐怖なのか、それとも・・・・。
「あれ、高橋さん、どうしたの?」
いろいろなことを考えすぎて混乱していた頭の中に、その声は入ってきた。
首だけで振り向くと、そこにいたのは須賀くんだった。
慌てて立ち上がり、笑ってみせた。
「なんでもないよ。寒かっただけ」
手元の雑巾に視線を落とし、なんでもない風を装って。
「それより須賀くんはどうしたの」
見れば、彼はすでに着替えているし、ボールを抱えている。
半袖のその姿は、ジャージの下に何枚も着こんでいる私にはあまりに寒そうに見える。
「あ、テーピングやってもらおうと思って。利き手だから自分じゃできないんだ」
自分でテーピングができる彼は、足首でも膝でも大抵自分で巻いている。
私に頼むのは自分でできない太ももの裏や、手のテーピングのときだけだ。