夢みる蝶は遊飛する


「あれ、先輩、どうしたんですか?」


するとそこには、一年生の部員が一人だけいた。



「ちょっと道具しまい忘れちゃって。
薄(すすき)くんはまだ帰ってなかったの?」

「俺は途中まで帰ってから、携帯忘れたことに気づいて戻ってきたんですよ」


そう言う彼の手の中には、黒くて薄い携帯電話が握られていた。


「そうだったの。家に着く前に気づいてよかったね」



彼に背を向けて、救急箱を探す。


いくら掃除をしてもすぐに汚くなってしまうこの空間では、毎日のように使う備品でさえ瞬く間に行方不明となる。

誰かの靴下や、何代か前の先輩のものだという大学入試の赤本に埋もれて、持ち手に切れたバスケットシューズの紐が絡みついた状態で、救急箱は発見された。

今日使用したものが、どうしてこんなに探さないと出てこないのか不思議に思う。


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