夢みる蝶は遊飛する
「私が知っているのは、薄くんとその黒木貴史が同じ中学校だったっていうこと。
それから、ふたりがバスケ部だったこと。
県選抜で、薄くんは選ばれず、黒木貴史が選ばれたこと」
私がひとつ言うたびに、彼の表情はどんどん厳しいものになっていく。
「そして、黒木貴史は、父親の口利きで選ばれたっていう噂があること」
噛みしめた彼の唇からは、嗚咽のような小さな唸り声が漏れ出した。
彼の中ではきっとこれはまだ過去ではない。
今もなお、彼の心には癒えない傷があるのだ。
「・・・・どうして、そこまで知ってるんですか」
それはとても小さな声だったけれど、二人しかいないこの空間の中ではやけに大きく聞こえた。
彼の顔が青白く見えるのは、切れかけた蛍光灯のせいだろうか。
「訊いたの。薄くんと同じ中学出身の人に」
バスケ部の部員の中には、薄くんと小学校からの付き合いだという人もいる。
その部員が話してくれたのだ。
薄くんと、黒木貴史との間にある確執を。