夢みる蝶は遊飛する
「あとは自分の能力をアピールすればいいって。
意味が・・・・わからなかったです。それで、訊いたら・・・・」
彼にかける言葉は持ち合わせていなかった。
慰めも、同情も、私が口にしたところでなんの意味もないのだから。
「父親が、バスケ協会の人間に圧力をかけたから、もう選ばれるのは決まってるって、言ったんですよ」
氷のような冷たい眼差しは、触れたら簡単に砕け散ってしまいそうなほど脆いもののように感じた。
「あいつの父親は、元全日本の選手だから」
ずっと一緒に切磋琢磨してきた仲間のその言葉は、今よりも幼かった彼の心に、いったいどれほどの傷を残したのだろう。
ただ純粋に夢を追いかけていた少年の未来への希望を打ち砕く権利など、誰にもなかったはずだ。
醜い欲望が生み出した陰謀は、彼の瞳から輝きを奪ってしまった。