夢みる蝶は遊飛する
長月の転校生
9月2日。
ここへ来て半月が経った。
真新しい制服を着て、私は今、古めかしく伝統を感じさせる建物の前に立っている。
どっしりとした門があり、それをくぐると左右に広がる楠並木。
この建物は、今日から私が通う高校である。
県立西陵高校。
編入試験は、大して難しくなかった。
県内屈指の進学校と聞いていたのに、拍子抜けした。
所詮は田舎の公立高校。
私がこの前まで通っていた東京の有名私立高校とはわけが違うのは当たり前。
もとから期待などしていない学校生活。
自嘲的な笑みとともに、私はそこへ足を踏み入れた。
職員室に向かい、担任となる教師と挨拶を交わす。
いたって普通の多分40代の女教師だったけれど、母と同じ年代ということで、やはり一瞬、息がしづらくなるような小さな胸の痛みが私を襲った。
そんなに早く傷が癒えるわけはないのはわかっているけれど、私はもう、なにも思い出したくはないのだ。
忘れたくはない、という気持ちも、交差しているのだけれど。