夢みる蝶は遊飛する
階段を上る脚が重い。
母親という、私がどんなに願ってももう同じ時間を歩めない存在が、心に突き刺さって痛かった。
部屋に入ると鞄を放り出した。
そして、仕舞い込んでいた写真立てを探し出して、抱きしめた。
花がほころぶように微笑む母。
仏頂面に見えるけれど、いつもより表情の柔らかい父。
そして、真紅を身に纏う私。
両親のいない未来なんていらない。
未来なんていらないから、幸せだった過去を返して。
どこか遠い過去に置き去りにされた、私の記憶の中の少女が、膝を抱えてひとりで泣いている。
呼んでいる、会いたいと。
叫んでいる、寂しいと。
伝えている、愛していると。
そしてその少女の姿が、ぼんやりと遠ざかっていく。
写真の中の私が身に付けた真紅が、まるで鎖のように心を締めつけた。