夢みる蝶は遊飛する
「紫紺の魔術師、7番、薄啓一先輩」
尊敬すべき先輩であるから、呼び捨てになどすることはできなかった。
たとえそれが、目の前にいる薄くんの父親でなかったとしても。
「その名前を出せば、もしかしたら代表選手になれていたかもしれないのにね」
本心とは真逆な言葉が、簡単に口から出てくる。
能力以外で評価されたくない、していてほしくないと思っているのに。
「じゃあ、先輩は出したんですか?」
軽蔑と哀しみの入り混じった顔で、そう問われた。
「自分の父親が、紫紺の魔術師の伝説のガード、5番、長谷川雅人だったって言ったんですか?」
「そんなの、自分から言うはずないじゃない」
親の七光りだとか二世だとか言われることを喜ぶ人間などいるのだろうか。
そこに誇りや自尊心はないのか。