夢みる蝶は遊飛する
「信じてほしいのは、私は周りに対して一度も、自ら自分の父親の名前を明かしたことはなかったこと。特殊な環境だから、どうしてもに完全に内密にはできなくて、公然の秘密みたいになっていた部分はあるけど」
彼は意地でもこちらを見まいとしていて、私の目と彼のそれが合うことはなかった。
「黒木貴史みたいな、親の立場を利用して、スポーツを汚していく人に対して私は、軽蔑以外の感情を持てない」
もしかしたら私が転校するまでの数カ月間、私と黒木貴史はどこかですれ違ったり、互いの存在を認識したりしていたのかもしれない。
けれど、他の選手たちの努力を踏みにじる行為をしていたのなら、バスケという面でだけ敬服していた皇ヶ丘学園への不信感は、消し去ることはできない。
もしも黒木貴史の入学が、正当な理由なしに決められていたのだとしたら。
「圧力とか、出来レースとか、前から言われてるのに、どうしてなにも変わらないんだろうね」
それは彼に対しての言葉ではなく、自分自身に対する問いかけであった。
若い芽を潰して、澄んだ水を醜い欲望で濁らせて、その先に繁栄があるとでも信じているのだろうか。