夢みる蝶は遊飛する
「それからずっと経って、この前の部活動参観の時。私に声をかけて、差し入れのスポーツドリンクをくれたのが、薄くんのお父さん。単身赴任をしていて、なかなか息子に会えないって言っていたのが印象的だった。
なんとなく見覚えがあるような顔だと感じたけど、気のせいだと思い直してたの。まさか会って話したことがあるなんて思わないじゃない?」
けれど、すべては繋がっていたのだ。
それよりも前に。
「それが、先輩の父親の葬儀ですか?」
私は声を出さずに頷いた。
「父の皇ヶ丘学園時代のチームメイトだっていう人に、声をかけられたのを覚えてる。紫紺の魔術師って呼ばれて、一緒に頑張っていたんです、って。
あの時、私と薄くんのお父さんは初めて会ったんだね」
たった一ヶ月前のことなのに、ひどく懐かしく感じる。
胸の痛みは変わらないのに、時間だけがもう何年も過ぎてしまったかのようにさえ。
「そうです。
東京で単身赴任中の俺の父親は先月、学生時代の友達の葬式に行ったそうです。その人には俺と同じくらいの歳の娘がいて、その子は涙も流さず気丈に振る舞っていた、そう言ってました」
私の姿は、その場にいた大人たちにはそう見えていたのだろうか。