夢みる蝶は遊飛する

気丈に。

涙を流さず。


ただ泣けなかっただけなのに、ずいぶんしっかりした強い人間のように見られていたようだ。



「その子が着ていた制服が、自分の子どもが通ってる高校の制服に似ているとは感じながらも、気のせいだと思ったそうです」


聞けば、薄くんには五歳年上の姉がいて、その人がこの高校に通っていた頃はまだ父親も一緒に住んでいたため、制服を覚えていたそうだ。


なんの変哲もないセーラー服だけれど、胸当てと左腕には、リボンと同じ紅い糸で、校章の刺繍が施されている。

その下には小さく“SEIRYO”つまり、西稜高校の名前も入っていた。

その特徴が一致していたため、不思議に思って覚えていたそうだ。



「年末に帰省した父親が部活動参観に来て、そこで先輩を見かけて。最初は気づかなかったけど、後になって思い返してみれば、あの時葬儀で見た友達の娘にそっくりだった。制服も同じで、まさかと思ったらしいです」


そして薄くんに訊ねたらしい。

あのマネージャーの名字は、なんというのか、と。

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