夢みる蝶は遊飛する
ただ、私の心の中では、新たな傷が痛みを訴えている。
彼の言葉が、鮮明に聞こえてくる。
―――自分の父親が死ぬって、どういう気持ちですか?
そんなもの、語れるはずがない。
思い出すたびに心のどこかが壊死していくような感覚に陥る。
すべて腐り落ちたら、自分がどうなるかさえわからないのに。
―――東京が、そんなにすごいんですか?
その一言に、気づかされた。
自分がどこかで、多少なりとも彼らを見下していることに。
私は馬鹿げた優越感に浸って、なにを得ようとしていたのだろうか。
涙で滲んだ夜空は、いつもよりくすんで見えた。
曇っているのは、空なのか、私の心なのか。
その日を境に、もうあの蔑むような憎悪を含んだ視線は感じなくなった。
彼の瞳は、私をあえて映さないようにしている。
わだかまりはまだ残っているけれど、それも無くなるだろう。
きっと、いつか。
そう信じている。