夢みる蝶は遊飛する

「なんだ、本命としてあげるんじゃないの。須賀もかわいそうね、その他大勢と同じもので」


沙世の“本命”という言葉に敏感に反応してしまった。


自分の心の中に芽吹いた感情を、一般的になんと呼ぶのかというくらい、私にもわかっている。

ただ、今の私にはそれを肯定することも、ましてや行動に移すこともできない。

というより、してはいけないのだ。

そうすることを、私自身が許さない。

今はまだ、もう少し、と。



「そういう意味は含んでないよ」


きっと、私のこの自制の理由は、沙世には馬鹿馬鹿しいと鼻で笑われてしまうだろう。

だから言えないし、言わない。

利己的で身勝手な私の考えなど、言うべきではない。



「はいはい、で、亜美はなに作るの?」


クラスの女子で交換しようという話が出たとき、一体自分はその日のためにどれだけの労力を費やさなければならないのだろうと考えて、めまいがした。

女子バスケ部が15人、男子バスケ部が26人、クラスの女子が22人。

60人以上の分のお菓子作りは、相当の時間と気力、それから体力が必要とされるはずだ。

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